「それにしてもいつの間に3対1か。これでちょうどいいハンデかな?」
「悪いですけど、なりふり構わず勝ちに行かせてもらいますよ。これで負けたら格好がつかないんで」
自らの戦いに集中していたため、知らぬ間に足元での戦いが収束していたことを知る高畑。
だがその状況においても、彼の言葉に焦りの色は伺えない。
先程背面に強烈な一撃を浴びたにも拘らず呑気な笑顔を見せる高畑。
和葉は対照的に、目尻と口角を不自然に釣り上げた歪な笑みを見せ、周囲の人間に薄ら寒さを感じさせる。
高畑は再びポケットに手を突っ込み、月光が僅かに反射する眼鏡の奥で敵を見据えた。
対峙する和葉もレイジングハートの照準を合わせて牽制。
徐々に弓を引き絞っていくように、場の空気が張り詰めていく。
ここで下から急速に接近する二つの気配。
ユキは虚空を跳躍するように、刹那は異端の翼をはためかせ、和葉の盾となるような位置へ躍り出た。
「和君、お待たせしました」
「よっ、刹那。前衛は任せたぞ」
和葉の援護と、ユキのダメ押しもあり、刹那は無傷で空へ上がることができた。
二人は一言交わして頷くと、少しだけ先ほどよりも真顔になった高畑に視線を向ける。
当の高畑の視線は、笑顔のまま睨みあっていた和葉の方ではなく、刹那の方へ向けられている。
それも当然だ。いや高畑だけではない。
本来の姿と霊力を解放した刹那に皆の視線が集まっていた。
「刹那君、まさかそれだけの力を隠し持っていたとはね。和葉君が期待するはずだ。僕も驚いたよ。しかしその姿、これだけの人前で晒しても良かったのかい? その僕の我儘のせいでこういう……」
「高畑先生」
高畑の言葉を遮るようにして、刹那が呼びかける。
「私は確かに純粋な人ではありません。その中でも特に異端であった私は、里の皆から幾度も及ぶ迫害を受けました」
誰もが彼女の告白に耳を傾ける。
特に親しい龍宮と葛葉は彼女の言葉に目を細め、眉間に皺を寄せている。
「しかし、だからこそ私は今の主に巡り合うことができました。主が認め、必要としてくれる私自身を恥じる所などありません」
力強く言い切った。
主の信が全てであり、他者の言は意にしない。
人外であることも、異端であることさえも、主のためならば喜んで受け入れる。
刹那の言霊に宿る狂信とも呼べるほどの忠誠心を、この場の者たちは垣間見た。
「そうか。良い覚悟をした眼だ。刹那君。君が受け継いだ詠春さんの意志、改めて確かめさせてもらうよ」
先程まで和葉に向けられていた威圧感が、全て刹那に向けられる。
それに怯む様子は一切見せない彼女だったが、その隣にユキが寄り添う。
「刹那、久々に妾が“憑いて”やる。妾と二人で前衛じゃ」
「はい! ユキ姉様、よろしくお願いします」
威勢のよい返事の後、ユキが刹那の後ろから首に腕を回すように抱きつく。
徐々に透けていくユキの体が、刹那に吸い込まれるように重なっていく。
「“狐憑き”か」
歯噛みするように高畑は呟く。
月光を背に白い翼をはためかせる姿が、神々しささえも感じさせる存在感を放っていた。
自らの教え子であり、まだ幼いと侮っていた少女から掛けられる予想外の重圧感。
それが睦月の夜風よりも更に鋭く、彼の肌を刺激する。
高畑はポケットの中に入れた拳を、再び軽く握りしめた。
対する刹那も上段に夕凪を構えて滞空している。
張りつめた空気を引き裂いたのは、和葉の意味深な一言。
「俺は“潜る”。任せた!!」
その言葉と同時に和葉は離脱しつつ、今度は20に及ぶアクセルシューターを放つ。
高畑を取り囲むようにそれらが迫る。
同時に刹那も、純白の翼を闇夜に滑らせて接敵した。
一直線へ飛翔する刹那が刀の間合いへ入ろうとするが、対する高畑は何の反応もない。
一瞬攻撃を躊躇し、減速する刹那。
そのため側面から迫るアクセルシューターの着弾が一瞬早くなる。
ここで高畑を取り巻くように突如嵐が発生した。
否、嵐ではない。
気と魔力の奔流だ。
胸の前で合わされた掌を中心に莫大な力が溢れ出る。
「っ、咸卦法ですか!」
「言っただろ。僕は本気だって」
危険を感じた刹那は、とんぼ返りで一度後方へと距離をとる。
高畑が虚空を蹴った。
正眼へ構え直した刹那へと距離を詰めつつ、見えない無数の攻撃を繰り出す。
『秘剣 斬空閃!!』
横薙ぎの一閃で迎撃。
曲線状に放たれた気と衝撃波が高畑の遠当てとぶつかり合う。
相殺された地点を中心に新たな衝撃波が発生して、二人は後退する。
(なんとか合いました)
(俺のおかげだろ?)
再び高畑を観測し続けている情報を同調によるパスを通じて刹那に送る和葉。
タイムラグがないからこそ、技のタイミングを合わせることができた。
「休ませないよ!」
念話しつつも、再び始まった戦いに身を投じる刹那。
和葉が相対したときと比較にならない威力とスピードによる攻撃。
それを刹那は高畑の上空を取り、旋回しつつ高速でかわし続ける。
しかし、それもむなしく数発が刹那の翼を掠める。
白い羽を散らしながらも、刹那は速度を緩めない。
何度かタイミングを合わせて相殺に成功するが、翼を止められないために肝心の奥義がなかなか出せない。
そんな彼女を援護するように、再度解き放たれたアクセルシューターが高畑に纏わり付く。
光弾は彼の動きを妨害するような軌道を描き続ける。
しかし彼は意に介さず、数発ヒットしながらも刹那を狙い撃つ。
咸卦法を用いる前と比較して、ダメージが期待できないのは明白だった。
しっかりと彼女を追い詰めつつ、不敵に高畑は笑った。
「天狐の彼女が“憑いている”とはいえ、今の僕に付いて来れるとはね。本当に驚きだよ」
「ええ。これが私の全てです。この刀と翼にかけて負けるわけにはいきません」
「翼か。でもね刹那君、上を取るのは空中戦のセオリーだけど、それは間違いだったね。これで僕も下を気にせず撃てる。今は夜だ。太陽を背に出来るわけでもない。不慣れな空と生真面目さが災いしたかな?」
「それは……どうでしょうか?」
「まさかっ!!?」
珍しく挑発するような言葉を発した刹那に眉をひそめる。
しかし、意味を理解した時にはもう遅い。
上空に気を払い過ぎたための失策だった。
退避は間に合わない。
目の前に襲いかかって来るのは一面の桜色。
ただの遠距離射撃ではない、大口径の砲撃だ。
一直線に向かってくる砲撃はまさしく“面”。
逃げ場などあろうはずがない。
直ぐに体を捻って反転。
両腕を交差させ、防御の姿勢をとる。
敵を殲滅するために
眩いほどの桜色が闇夜を塗り替えた。
焼き払うように襲いかかる光が高畑の全身を包み込む。
「どうだ? ディバインバスターなら」
ディバインバスター、魔法少女リリカルなのはにおいて、高町なのはが得意とする直線型砲撃魔法の1つ。
本来なら狙撃と呼ぶべき距離から砲撃する魔法。
アニメでの彼女がそうした様に、かろうじて人影を視認できる距離から和葉もソレを放っていた。
煙幕が次第に晴れて来る。
だが高畑は予想通り健在だった。
多少ダメージが見受けられるも、体のどこかを抑えるような様子は見受けられず、致命的なダメージを与えたとは言い難いようだ。
高畑は遥か遠方に居る和葉を見据え、目を鋭く光らせる。
敵の実力を再認識した彼が反撃に出るつもりなのは、誰の目に見ても明らかだった。
しかし、高畑は甘かった。
否、甘かったのではない。
彼には単純に必要な知識が不足していた。
観客の幾人かはこれからの展開を予想できているのにも関わらず、高畑にはそれができない。
その一部の観客たちは「あぁ、ダメだ」、「逃げて高畑先生!」など必死で呼びかけるが、上空の彼に声は届かない。
高畑の左右にユキと刹那が現れ、体制を整えようとする高畑に手をかざす。
『稲交尾籠』
『魔法の射手・戒めの風矢!!』
独鈷によって生じた結界と、風の矢による二重の拘束により高畑が捕えられた。
声にならない悲鳴が足元から湧きおこる。
容赦ない砲撃の後に、敵を拘束するのは彼らにとっては自然な流れなのだ。
当然その次に来るのはトドメの一撃に他ならない。
『ヴァイブ・ド・ライブ・ダイブ・アライブ……』
和葉は西洋魔法の始動キーを開始する。
通常は何の意味もなく、語感などで選ばれる
しかし彼の始動キーには、特別な意味が詰め込んであった。
世界に“共振し”
世界の“流れに乗り”
世界の“深層へ潜り”
それでも“自己を確立する”
これが彼にとっての全てであるからこそ、強い言霊を込めて言葉を紡ぐ。
和葉は巨大な魔方陣を生成し、その上に立っていた。
当然誰もが莫大すぎる魔力反応に気づいている。
白いバリアジャケットを夜風にはためかせる和葉の姿。
そして目にしたのは左手に杖を構えている。
いつの間にか杖の形状が変わっており、白い翼が生じていた。
レイジングハート、フルドライブのエクセリオンモード。
それをよく知る人々は一気に血の気が引いた。
魔法少女アニメの主人公が“悪魔”と称されるに至った元凶の一つ。
可愛らしい姿と裏腹に、幾人もの敵に絶望をの底へ葬って来た魔法の杖。
その中で最も悪名高い姿へと、レイジングハートは姿を変えていた。
本当に全力全開……否、全力全壊のつもりらしい。
「……非殺傷設定、タイプβの設定完了」
人々の不安を余所に和葉は魔力を収束していく。
槍のような杖先には、ミッドチルダ式を再現するかのような魔方陣が展開されている。
幾重もの環状の魔方陣が生成され、杖先の魔力球の直径は和葉の背丈よりも肥大化する。
それから放たれる魔法は一つしか考えられない――――スターライトブレイカー。
魔力を周囲からかき集め、収束させる大砲撃。
アニメの中とはいえ、核攻撃と比較されることすらある。
砲撃では考えられない程のレンジを有し、どんな防御も貫通して叩き落とす。
可憐な魔法少女が魔王の名で呼ばれるに至った技を、彼は現実世界において再現する。
「カートリッジリロード!!」
叫んだ後3発の弾が装填され、薬莢が地面に落ちていく。
先ほどの魔力球が数秒のうちに更に倍になった。
カートリッジ3発分。
これが和葉の単独で扱える全力だ。
広域殲滅魔法の合わせがけ以上の力を1点に収束し、彼は照準を合わせ直した。
既にユキと刹那は射線上から離脱している。
結界は既に破られ、半分以上の風の矢も破壊されている。
しかし未だ彼はその場を離れることは出来ない。
高畑の顔に一切の余裕はなかった。
そんな彼に向って終わりのときが近づく。
全ての力を収束させきろうとする和葉は、最期の言霊を告げる。
『スターライトーォォオオオオ ――――――――――!!!! 』
しかし次の言葉が発されることなかった。
夜空を塗り替えたのは、絶望の桜色ではなく白色の閃光。
突如走った雷撃に打たれ、和葉は力なく崩れ墜ちた。
痛々しいバリアジャケットはいつの間にか白衣姿に戻っている。
同様に禍々しい杖もいつの間にか小さな宝玉に戻っており、和葉と共に足元の森へ向けて落下していた。
空中でレイジングハートを掴み取り、何かを呟くが何も起こらない。
突然の出来事に苦虫をつぶした顔をしながら、頭から落下していく和葉。
呪符を取り出すも何の反応もない。
「クソっ、これもダメか」
どんどん地面が近づいてくる。
目下には一面に広がるスギ林。
枝がクッションになることを期待できる高度ではない。
「完全に生身って、シャレになんねえぞ」
自分一人ではどうしようもない。
だが幸いにも、彼は一人ではなかった。
「和君!!」
必死の形相の刹那が漆黒を駆け抜け、主の危機の前に現れた。
木に激突する寸前に体を抱きとめられる。
「ピンチのときに颯爽と現れる騎士様か。カッコよすぎて涙が出るぜ……何で逆なんだろ」
か細い女の子にお姫様抱っこされる情けない様子を自虐し、口元だけ笑っている和葉。
「こんなとき、ふざけんといて! ホンマにウチら心配したんよ」
刹那が声を張り上げた。
涙こそ流さないものの、真っ赤に目を充血させている。
「そうそう。まさかこんな風になるなんてね。ゴメン、私には予測できたかもしれなかったのにね」
そして刹那の体から分離するように現れたユキ。
手を胸の前で合わせ、彼に謝罪する。
「ユキ姉。謝らなくて良いから、俺にもその幻術かけてくれないかな? この格好のままは恥ずかしすぎる」
「んー面白いから、みんなの所に降りるまでそのままね」
「面白がるなよ! 男には威厳ってものが」
「冗談だって。でもその様子を見せるのが状況を説明しやすいでしょ?」
「あっ、そうか」
ユキの主張を理解した和葉は諦めた様子でうなだれる。
生温かい視線を受けながら、彼らは広場へと舞い戻った。
「和葉よ。お主、今の状態はまさかじゃとは思うが」
「あぁ。ここの結界によって力が封じられたみたいだ」
学園長の問いにあっさり答えた和葉。
予想外の答えに、一同は驚きの声をあげた。
「自分の魔法の使い方は特殊だから。爺さんは知ってるだろう? あとは論文を読んでくれた人か」
その言葉に学園長、明石、弐集院、刀子、そして高畑が深刻な顔で頷いた。
学園長以外に頷いた人間に向けて視線を合わせ直す和葉。
「俺の場合 “場”から力を自分へと吸い上げるんじゃなくて、自分を“場”に“繋げて”力を使うんです。高畑先生なら良く知っていると思うんですけど、咸卦法近い感覚です。ただこのとき自分の魂も変質しまう欠点があって」
「それで若様が学園の結界から高位の霊格と認識されてしまった。そういうことでしょうか?」
刀子の言葉に和葉は頷く。
「それで力を封じられて、今の状態になったんだと思います。もう魂は元の状態のはずなんですけど、未だに結界から対象だと認識されているみたいですね。ユキ姉、もういいだろ?」
「いやダメじゃ。確かに今の妾のように幻術でこの結界から逃れることはできるが、その技が漏れるのは拙いのではないか?」
「そうじゃの。ユキ殿、ここは人目が多い。和葉には悪いが元に戻すのは後にしてもらえんかの?」
「だそうじゃ和葉」
「まぁ別に困らないけど。模擬戦は終わったし、爺さんそろそろ帰っていいかな?」
首をだるそうに回す和葉。
その言葉に同意して学園長が再び解散の言葉を告げた。
「和葉君、色々迷惑を掛けたね。でも本当に楽しかったよ」
さっきまで戦っていた相手、高畑が和葉に握手を求める。
差し出された手を取り、強く握り返す和葉。
二人は互いに謙遜し、称え合う。
「お疲れ様です。さすが紅き翼だなと思いましたよ。ディバインバスターで1~2割程度しか削れないなんて、ラカンさん以来の悪夢でしたよ」
「あのラカンさんと比べられてもね。それにしても連携と言い、独自魔法といい素晴らしかったよ」
「オタクの魔法使いが、アニメの魔法を使ってみたかっただけの話ですよ。良かったらDVD貸しましょうか? いろんな視点があって意外と勉強になりますよ」
笑い話の中で、さり気なく布教活動を行う和葉。
「うーん。時間がないからね。また今度にしておくよ。それで特に気になったんだけど最期の魔法、あれは咸卦法だね。一体どうやったんだい?」
「貴方には流石にバレましたか。タネはこれです」
和葉は弾丸状のカートリッジを高畑に見せる。
「外部からの魔力の補給か。それならあの出力も納得できる」
「いいえ、中に入っているのは“魔力”ではなくて、“気”です」
その言葉に目を丸くした高畑が手を叩く。
「なるほど。咸卦法のネックは魔力と気のバランス。そして二つの容量。大抵の場合、気が先に尽きてしまうからね。それを補充……いや違う。混ぜ込む気の量をブーストすることで、それに対する魔力もブーストできる。一発限り、本来ならありえない火力の咸卦法を創り出すのか」
「大正解です。たったこれだけのヒントで全てわかるなんて、驚きましたよ。咸卦法を誰よりも使いこなしているだけありますね」
拍手を送りながら高畑へ賛辞を送る和葉。
後ろに控えていた刹那もつられて拍手する。
「いや、年期が違うからね。でもその発想は今までなかったな。だからあの杖か」
「ええ。気を供給するシステムが必要だったので」
紅い宝玉へ戻ったレイジングハートのネックレスを、ワイシャツの奥へ仕舞いこむ。
「でも君の年齢で咸卦法をそこまで応用できるなんて、流石天才と呼ばれるだけあるね。僕なんか何年も魔法球で修行したのに」
「さっきも言ったように、自分の場合は魔法の使い方が特殊なんで、咸卦法のとき世界に繋がる感覚はそんなに難しくないんですよ。同じ出力ならむしろ魔法より安全な位ですし。適性の問題なだけです」
「一撃限定、チャージ中は移動不可能という制限付きの和葉よりお主の方が遥かに巧いし、強い。自信を持つが良い」
自虐気味に気落ちする高畑をユキがフォローした。
「でもさっきの非殺傷設定βで、その拳を封じる自信があったんですけどね」
「そういえば、僕の居合い拳の射程やタイミングをかなり正確に見抜いているみたいだったね。あの光球で見抜いたのはわかるけど、その設定というのは封印魔法の一種なのかい?」
高畑が問うと、待ってましたとばかりに身を乗り出す和葉。
「この魔法のアニメの特徴はですね。非殺傷設定と言って、肉体に物理ダメージを与えずに精神に直接働きかけてノックアウトさせる素晴らしい設定があるんですよ」
「それは凄いね。通常の攻撃を幻術や精神波に任意で置き換える、そういうことかい?」
「はい。俺のタイプαがそれに近いんですけど、今回使おうと思ったのは武装解除に変換するタイプなんです」
自信満々に述べる和葉。
対照的に高畑の顔は一気に青ざめた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。もしかして君は……僕を“脱がす”つもりだったとか言わないでくれよ」
「いや、そうだったみたいじゃが」
「一体何を考えているんだ君は!?」
「これでもかなり真面目に考えたんですけどね。居合い拳と言うんでしたよね。観察結果、ポケットに手を入れる動作が、何らかの儀式になって凄まじい拳圧を放てるようになるという推測を立てました。今その名前を聞く限り、儀式じゃなくて本当に居合いの効果みたいですけど」
恐ろしい推論が当たっていて、取り乱す高畑。
対するユキと和葉は平然とし、刹那は呆れ顔で見守っている。
「だったら、ポケットを使えなくすればその技を封じれると思ったわけです。あまりにも耐久力が高い相手とはいえ、非殺傷設定を使わなかったら結界やら色々まずいですよね? だから結構合理的判断だと思うんですが」
「αとか言うほうで良いよ! あれだけの威力の魔法が全て武装解除に回されたら、どうなるか位わかるだろ!?」
涙目で突っ込む高畑。
しかし、思わぬところから全力の突っ込みが入った。
「か、和君のアホーッ! 『紅蓮拳!!!』」
「ぐはっ! せ、せつ……」
何を想像したのか、刹那が顔を赤面させ、渾身の拳を振り抜く。
和葉の体は見事に宙を舞い、地面に叩きつけられる。
場の空気が凍る。
高畑は直ぐに駆け寄り、彼の首筋に手を当てた。
脈拍を測りながら高畑は言う。
目が全く笑っていない。
「なぁ刹那君。彼、今は生身じゃなかったのかな」
「だいぶん高く飛びましたねー。茶々丸、彼生きてる?」
「体温が僅かに低下、脈拍は著しく低下しています。瀕死に近いと思われますが、優秀な治癒師が多数いるので心配はないかと。ハカセ」
とある時計台の上。
世界樹広場をスコープで観察しているのは、ハカセと呼ばれた二つ結びで眼鏡の少女。
緑の髪とヘッドセットが特徴的な、茶々丸と呼ばれた長身の少女はスコープを使わず遥か彼方の魔法使いたちを観察していた。
「近衛和葉……カ。噂以上のイレギュラーのようネ」
「超さん、やっぱり彼の存在って不味いんですかねー?」
「いや、まだ何とも言えないヨ。確かに近衛木乃香に双子の兄なんて存在は知られていなかった。しかし彼の存在が歴史から抹消された可能性も考えられる。並行世界と考えるのは早計ネ」
お団子頭でいかにも中国人風の超と呼ばれた少女。
意味深な言葉を発しながら、顎に手を当て考え込む。
「しかし、色々と興味深い。魔法世界の崩壊を防ぐために大々的に動いている人物など、この時点では誰もいなかったはずヨ。もしこの世界が並行世界だとしても、彼の方法次第では悲劇の回避方法を知ることができるかもしれないネ」
「なるほど。超さんのいた世界の過去に飛ぶ方法さえあれば、それは理想的ですね。それでどうします? 計画に変更はありますか?」
「計画はこのまま進める線で行くヨ。ただし彼の観察は続行。もし彼の方法が我々の願いに値するものであれば助力は惜しまないネ。この計画はどう転んでもベター以上にはならない。なら多少の柔軟性は持たせるべきだと思うヨ」
リーダーとしてハッキリとした指針を打ち出す超。
その目にはいつもよりも真剣な輝きが宿っている。
「超、ここでのデータはマスターに全て報告しますが構いませんか?」
「うむ。あの狐の件は朗報だろう。構わんヨ。我々も今夜はここで解散するとしよう。茶々丸、彼女にコレを持って行くと良いネ。きっと風邪もよくなるはずヨ」
「ありがとうございます」
肉まん入りの紙袋を差し出された茶々丸は、超に深く礼をして受け取る。
「さて、これから忙しくなるネ。調べることが更に増えたヨ」
夜の寒空の下、肉まんを食む少女の顔には希望に満ち溢れた笑みが零れていた。